葵ちゃんが紹介状を書いてもらう為に病院へ出掛けて行った。
今、通っている個人医院は、5年ほど前、葵ちゃんが入所していたケアハウスの近くにある。
当時は近くてよかったのだが、いざ、自宅での生活に戻ると不便な場所にある病院になる。
よって通いやすい総合病院に変えたいと言い始めたのだ。
「ほんでも、先生に病院を変えたいって言いにくいわなぁ?」
誰にでもいい顔をしたい葵ちゃんはそう言った。
そのDNAを受け継いだ僕もそうなのだけど。
確かに言いにくいのもわかる気がする。
とはいえ70歳を超え、来院することが大変になったので、通いやすい総合病院に変えたいという旨を正直に話せば、先生もそんなに悪い気はしないと思う。
別に先生の診察が気に入らないというわけじゃないのだから。
「そうやな」
葵ちゃんも納得して出掛けて行った。

昼食は僕だけなので、そばを茹で、先日の残りのとろろをかけてとろろそばにする。
午後、届いたばかりの英語教材をぱらぱらめくり、メールをいくつか打っていると、葵ちゃんが戻ってきた。
髪型が変わっていた。
しかもご丁寧にヘアカラーまで。
「あれ?病院は?」
「歯医者は行ってきたよ」
母子戦争勃発である。
思い出せる範囲で会話を再現していく。
「はぁ?
なんで歯医者なの?」
「歯がしみるんやて」
「いやいや、そういうことじゃなくて、●×整形は?」
「行かんかったよ」
「なんで?」
「遠いで面倒なんやて」
「だから、近くするために行ったんやろ?
しかも何で美容室なんかに行っとるの?」
「明日、華道の稽古があるんやて」
いつでも見栄えよく出掛けたい葵ちゃんである。
とはいえ、そのDNAを受け継いだ僕も気持ちはわかるけど。
「病院行くって、なんで美容院なんや。
子供が塾に行くって言って、ゲームセンターに行くようなもんやないか」
「何や偉そうに。
それは、あんたやがね。
塾へ行くって言って、デートしとるとこ見つかったくせに」
葵ちゃんが昔話を持ち出し始めた。
高校時代、塾に行くからと嘘をついて、おこずかいをもらい、当時、交際していた女の子と岐阜の街でデートしていた。
運悪く葵ちゃんも岐阜へ出掛けており、偶然にも同じパスタ屋で会ってしまったのである。
家に近い大垣の街ならともかく、岐阜の街で会うとは思いもよらなかった。
「あんたは、昔からたあけやでなぁ。
もっと違うところ行っとれば見つからんものを」
「うるさいわ。
呆けとるくせに、昔のことだけは覚えとりやがって」
醜い母子戦争は夜まで続いた。
そして、本日の午前中、葵ちゃんは華道の稽古を休むことを伝える電話をした。
「今日は雨やでなぁ」
僕にその電話が聞かれたと思い、バツが悪そうに言った。
「華道の為に、美容室行ったんじゃありませんでしたっけ?」
「明日、ごいんさん(お坊さん)がござる日やでなぁ」
言い訳だけは次々、出てくる葵ちゃんである。
とはいえ、そのDNAを受け継いだ僕もそうなのだけど。
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by イシコ
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