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「病院に行ったはずが、美容院に…(セカイサンポ休憩中284)」

2010/02/09 13:20

 

葵ちゃんが紹介状を書いてもらう為に病院へ出掛けて行った。

今、通っている個人医院は、5年ほど前、葵ちゃんが入所していたケアハウスの近くにある。

当時は近くてよかったのだが、いざ、自宅での生活に戻ると不便な場所にある病院になる。

よって通いやすい総合病院に変えたいと言い始めたのだ。

 

「ほんでも、先生に病院を変えたいって言いにくいわなぁ?」

誰にでもいい顔をしたい葵ちゃんはそう言った。

そのDNAを受け継いだ僕もそうなのだけど。

 

確かに言いにくいのもわかる気がする。

とはいえ70歳を超え、来院することが大変になったので、通いやすい総合病院に変えたいという旨を正直に話せば、先生もそんなに悪い気はしないと思う。

別に先生の診察が気に入らないというわけじゃないのだから。

「そうやな」

葵ちゃんも納得して出掛けて行った。

 

 

昼食は僕だけなので、そばを茹で、先日の残りのとろろをかけてとろろそばにする。

午後、届いたばかりの英語教材をぱらぱらめくり、メールをいくつか打っていると、葵ちゃんが戻ってきた。

 

髪型が変わっていた。

しかもご丁寧にヘアカラーまで。

「あれ?病院は?」

「歯医者は行ってきたよ」

母子戦争勃発である。

思い出せる範囲で会話を再現していく。

 

「はぁ?

なんで歯医者なの?」

「歯がしみるんやて」

「いやいや、そういうことじゃなくて、●×整形は?」

「行かんかったよ」

「なんで?」

「遠いで面倒なんやて」

「だから、近くするために行ったんやろ?

しかも何で美容室なんかに行っとるの?」

「明日、華道の稽古があるんやて」

いつでも見栄えよく出掛けたい葵ちゃんである。

とはいえ、そのDNAを受け継いだ僕も気持ちはわかるけど。

 

「病院行くって、なんで美容院なんや。

子供が塾に行くって言って、ゲームセンターに行くようなもんやないか」

「何や偉そうに。

それは、あんたやがね。

塾へ行くって言って、デートしとるとこ見つかったくせに」

葵ちゃんが昔話を持ち出し始めた。

 

高校時代、塾に行くからと嘘をついて、おこずかいをもらい、当時、交際していた女の子と岐阜の街でデートしていた。

運悪く葵ちゃんも岐阜へ出掛けており、偶然にも同じパスタ屋で会ってしまったのである。

家に近い大垣の街ならともかく、岐阜の街で会うとは思いもよらなかった。

 

「あんたは、昔からたあけやでなぁ。

もっと違うところ行っとれば見つからんものを」

「うるさいわ。

呆けとるくせに、昔のことだけは覚えとりやがって」

醜い母子戦争は夜まで続いた。

 

そして、本日の午前中、葵ちゃんは華道の稽古を休むことを伝える電話をした。

「今日は雨やでなぁ」

僕にその電話が聞かれたと思い、バツが悪そうに言った。

「華道の為に、美容室行ったんじゃありませんでしたっけ?」

「明日、ごいんさん(お坊さん)がござる日やでなぁ」

言い訳だけは次々、出てくる葵ちゃんである。

とはいえ、そのDNAを受け継いだ僕もそうなのだけど。

 

 

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「火事より感電?(セカイサンポ休憩中283)」

2010/02/08 13:10

 

僕が高校生の頃、自宅が火事になった。

ただ、不幸中の幸いでボヤに近い程度だった。

 

亡くなった祖母が庭で焚き火をしていて、それが家に燃え移り、みるみるうちに燃え始めたそうだ。

ちょうど自宅の近所で家を建てている最中で、しかも大工さん達が休憩中でコーヒーを飲んでいたことが幸いした。

家に火が燃え移っているのが見え、大工さん達がかけつけてくれ、消火活動をしてくれた。

その後、すぐに消防車もかけつけ、壁一面が焼けただけで済んだ。

 

火事を出してしまった祖母は、どうしていいかわからず、おろおろするだけだった。

もし、大工さん達がいなかったら、今頃、この家はなかったかもしれない。

 

葵ちゃんは興奮しながら、当時の話を語った。

手に延長コードを持ちながら。

そのコードの根元は黒く焼けていた。

興奮していたのは当時の火事の話のせいではなく、持っているコードのせいである。

 

一瞬、ショートしたように家の電気が消えたのは、このコードが原因だった。

ドライヤーを使っている最中に足元の延長コードから火があがったそうだ。

テレビで見たことのある不具合のある電化製品から火が出るように。

 

黒くなった延長コードを見せてもらうと、昭和が漂うタイポグラフィで1000ワットまでと表示されていた。

「これかなり古いでしょ?」

「この家に比べたら新しいわ」

さっきまで焦りながら興奮していた葵ちゃんは、落ち着いた憎らしい葵ちゃんに戻っていた。

100年以上の家と比べたら、ほとんどの物が新しくなるに決まっているではないか。

 

「ドライヤーは1400ワットやんか?

これは1000ワットまでって書いてあるやんか。

1リットルのペットボトルに1.4リットルの水を入れとるようなもんやでね」

「偉そうに。

ほんなもん今まで使ってきて、どうもあらへんかったんやもん」

 

その言い方は、夕方に放った台詞に似ていた。

さつまいもが腐っていた。

腐った旨を伝えて捨てようとすると止められたのである。

「少し腐ったくらいで、ガタガタ言やあすな。

どうもあらへんわ」

それで、できあがったのが夕方の葵スイートポテトだった。

確かに、いつものように美味しかったけれど…。

 

 

読んでいた文庫本を閉じ、家中の延長コードをチェックすることにした。

そして、すぐに後悔した。

数が多い。

延長コードに更に延長コードを差し込んでいる場所も、いくつかある。

 

しかも何を基準にチェックすればいいのかはっきりしないまま、動き始めたので、どこか動きが中途半端なのである。

もちろんコードが、ほつれているようなところはないかは見るわけだが、ほつれている延長コードというのも早々、あるものではない。

火のあがった延長コードもほつれていたわけではない。

 

しかし、ならば、それ以外に何をチェックすれば、いいのかわからない。

別に製造年月日が書かれているわけでもないので、どれも使えると言われれば否定しようがない。

仕方なく、後は現在、使用している電化製品のワット数との兼ね合いをチェックするくらいである。

 

中途半端ながらも一応、自分なりにチェックして座イスに戻ると、葵ちゃんはご丁寧に押し入れで眠っている延長コードまで持ってきて、僕の目の前に置いた。

だから、これをどうしろと言うのだ。

 

 

 

 

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「永平寺とゴマすり(セカイサンポ休憩中282)」

2010/02/07 13:03

 

福井県に永平寺という曹洞宗の大本山がある。

僕の頭の中には大晦日の紅白歌合戦の後の「ゆく年くる年」に登場する寺としてインプットされている。

 

5年ほど前、葵ちゃんがリウマチで療養していたケアハウスからの退所祝いも兼ねて、その永平寺に行ったことがある。

今、考えるとどうして永平寺に行ったのかわからない。

「うちは浄土真宗やのになぁ」

葵ちゃんもそう言っているということは彼女の希望ではなかったらしい。

 

ちょうど僕が岐阜に戻ってきている際、永平寺の記事かニュースを見て思い立って出掛けたのだろう。

何となく石原家の行動パターンは想像がつく。

 

「永平寺では、ゴマを擂ることも修行なんやと」

とろろを擂っている僕に葵ちゃんは言った。

永平寺の名物として知られるゴマ豆腐がある。

修行僧達の貴重なタンパク源として食されてきたらしい。

葵ちゃんは永平寺の修行僧のドキュメンタリーをテレビで見たそうだ。

 

「あんたみたいに酒飲みながら、山芋を擂っとるのとは訳が違うでなぁ」

葵ちゃんは続けて言った。

山芋に加えるだし汁に入れた日本酒の残りを口に含んだところを見られたようである。

たいてい何かしら酒をそばに置いて料理するのだが、何も置いていないと料理に使用している普通酒の味もたまには悪くないなぁとつぶやきながら、料理に加えるときにコップに多めに注ぎ、料理に加えた後、自分の口に含むことがある。

キッチンドリンカーというのは、こういった行為から生まれるらしい。

 

酒は口に含んだまま、僕はせっせと擂り続けた。

「ほんなもん力任せに擂ってもあかへんのやよ」

プロ野球のキャンプでコーチがバッティングの癖を修正するように、葵ちゃんは僕の擂り方のフォームを修正した。

 

僕はすりこぎを持って、船を漕ぐように力任せに擂っていたのだが、葵ちゃん曰く、右手で軽く上から押さえながら、左手で小さな円を描くように回転させる。

確かに力を入れなくても擂っている感触がある。

生まれた力を、うまく利用していく様は合気道のような感じである。

永平寺の修行僧達もこういったことを考えながら擂っているのだろうか。

 

 

卵を加えて更に擂る。

ラジオからは、スコットランドの民族楽器バグパイプで演奏するアメージンググレースが流れている。

「これイギリスで観たよなぁ」

葵ちゃんが言った。

 

葵ちゃんのイギリス旅行の際、僕も一緒にいたと思うのだが記憶がない。

そうつぶやきながら、擂り続ける。

「あれ?

あんたおらんかったかね?

ほんなら、まぁーちゃん(葵ちゃんの妹)と行った時やなぁ」

そう言った。

葵ちゃんが二回イギリスに行っているとを初めて知った。

まぁ、別に、二回行こうが、十回行こうが、構わないんだけど。

 

酒としょうゆとみりんで作っただしを少し加えては、また擂る。

何の得にもならぬ会話が続く台所で、とろろになるまで擂り続けるのであった。

 

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「倒れた木の処理(セカイサンポ休憩中281)」

2010/02/06 13:04

 

庭の木が倒れていることは、気にはなっていた。

気にはなっていたのだが、なかなか手が出せなかった。

倒れているのは常緑針葉樹で細長い葉が特徴的なマキの木。

そのマキの木の1本が正月の大雪の重みで倒れてしまった。

 

 

「そろそろあの木を何とかせんとなぁ」

葵ちゃんが角材のような高野豆腐を食べながら、ぼそっとつぶやいた。

本音を言えば、

「ちょっと、早くあの木の処理を何とかせんか!

この暇人が!」

といった感じなのだろう。

「やっぱ、わかるんやね?」

葵ちゃんは、そう言って笑った。

 

昼食後、木の様子を見に行く。

地面がえぐられ、抜きとられるように倒れていた。

倒れた木が近くに生えている背の低い木の上に覆いかぶさり、一緒に押しつぶされていた。

ただ、その低い木は弾力性を持っており、完全に折れておらず、まだ生きているように見える。

来週は暖かくなるという天気予報に合わせて作業しようと思っていたのだが、苦しそうにしている低い木の存在を知ってしまうと、今、やっておかないと気持ち悪い。

 

昼寝をすると言っていた葵ちゃんも野次馬的にやってきた。

「あそこまで引っ張ってきゃええがや」

能天気に、いつも僕が焚き火をしている場所を指して言った。

 

「ほんならそっち持ってぇや」

高さ10メートル程度あった木なので、とても引っ張っていけないことはわかっていたが、葵ちゃんには口で言うより、実感してもらった方が早い。

「こら重いなぁ。

まぁ、私はリウマチやでなぁ」

すぐに持つことを諦めた葵ちゃんは手をさすりながら昼寝へと戻っていった。

 

空からは雪がってきた。

なんでこんな日を選んじゃったかなぁと思いつつも、ウィンドブレーカーを羽織り、のこぎりを持って、木の枝から切り始めた。

僕の計画としては葉のついた枝の部分を切り取って軽くしてから、焚き火の場所まで運んでいく。

1ヶ月近く経過しているのに、木の葉はまだ生きているように思えた。

 

木の枝は全て取り払い、直径約20センチの丸太になった。

そのまま引っ張ろうとしたのだが全く動かない。

真ん中で切ることにする。

直径20センチの太い木を切るというのは、僕にとっては意外に難しい。

途中からのこぎりが入っていかない。

つまり、のこぎりをひく作業が下手なのである。

途中で疲れ、木の上に腰かける。

 

そういえば中学校の頃、技術の時間に友人から

「イシコ(小学校からのあだ名である)はのこぎりが下手だなぁ」

と言われたことを思い出した。

あの頃は、「下手」、「不器用」と言われることが悔しかったが、今となっては懐かしい。

 

下手だろうが、不器用だろうが、時間さえかけてやればできることもあると思えるようになったのはいつからだろう。

不器用な僕は約1時間かけて、ようやく焚き火の場所に全てを移動させることができた。

来週は、バーボンでも飲み、不格好な切り目を見ながら焚き火を楽しむことにしようと思う。

 

昨日のうちにやっておいてよかった。

今日の岐阜は雪が積もってしまった。

その雪の中から低い木は力強く真っすぐ立っているのが、今、座っている場所から見える。

その低い木が何という種類なのか石原家にわかる者は、いない。

 

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「絹ごし豆腐と木綿豆腐(セカイサンポ休憩中280)」

2010/02/05 13:00

 

恥ずかしいのだが、絹ごし豆腐と木綿豆腐の違いは10年程前まで知らなかった。

当時、一人暮らしを初めてから既に10年以上経っていたのだが、知らなくても何の問題もなく過ごしてきた。

つまりは、ほとんど料理をしてこなかったということの証でもある。

 

「木綿豆腐の方がぎゅっと詰まっとんねんで。

絹ごし豆腐と同じ値段ちゅうのが、ようわからんねん」

ある時、関西の舞台役者が興奮しながら、言っていたのを聞いた。

絹ごし豆腐は木綿豆腐から水分をとって固めたものなのだと、この時に初めて知った。

 

それ以来、しばらく木綿豆腐ばかり買うようになった。

もちろん冷や奴も木綿豆腐になった。

僕は影響を受けやすいのである。

 

それから5年くらい経った頃だったろうか。

このあたりは定かではないのだが、別にそれが4年くらい経った頃だろうが、6年くらい経った頃だろうが、話の展開に困ることはないのだけれど。

ともかく何年かして(最初からこう書けばよかったですね)、スーパーに木綿豆腐がなく、絹ごし豆腐しかなかったことがあった。

 

久しぶりに絹ごし豆腐の冷や奴を食べた。

確かテレビで普段、あまり見ないプロ野球中継を見ていたと思う。

だからきっと夏だったのだろう。

プロ野球、ビール、冷や奴というのは夏の幸せ風物詩のセットとして僕の脳にインプットされているようなところがある。

話の展開とは全く関係ないのだけれど。

 

ともかく、いつものゴワゴワ感のある冷や奴ではなく、滑らかなプリンのような口あたりが新鮮だった。

その時、だから居酒屋の冷や奴はいつも滑らかに感じたんだなぁと今さらながら気付いたのである。

僕は鈍感なのである。

 

それから冷や奴の時は絹ごし豆腐。

麻婆豆腐のときは木綿豆腐。

料理によって使い分けるようになった。

 

 

さて、それでは味噌汁の時にはどうするか?

絹ごしと言う人もいるし、木綿だと言う人もいる。

それでも、崩れにくい方を選ぶということであれば木綿豆腐であろう。

しかし、湯豆腐のように滑らかな口あたりを楽しみたければ、絹ごし豆腐を使ってもいい気がする。

 

「あんたが買ってくるようになってから、豆腐がよくないんやて」

葵ちゃんが、僕の買い物にダメ出しをした。

僕が食事の買い出しに行くようになってから、豆腐は特売の100円以下の物ばかりである。

絹ごしだろうが木綿だろうが、豆の香りがしないのだそうだ。

よって先日、1200円以上する高い木綿豆腐を買ってきた。

 

「この豆腐は高いだけあって美味しいねぇ」

昨日、作った豆腐とわかめの味噌汁を食べながら、葵ちゃんは改めて言った。

確かに豆という感じがする。

「母ちゃんは、味噌汁のときは、昔から木綿豆腐を使っとるの?」

「ほんなもん当たり前やがね。

昔は縄で縛って持って帰ってきても崩れんような木綿豆腐があったやけどねぇ」

葵ちゃんは豆腐について熱く語り始めた。

葵ちゃんが豆腐にこだわりがあることを初めて知った。

 

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「原始人的生活(セカイサンポ休憩中279)」

2010/02/04 13:20

 

先日、原始人的な生活がニューヨークで話題になっているという短いレポートをテレビのニュースで観た。

スポーツジムには行かないで、公園の木の間をジグザグに走ったり、大きな石を持ち上げたりしながら身体を鍛えている様子が映し出された。

彼ら曰く、そうすることで自然の力が蘇ってくるというものであった。

 

食生活も独特だった。

一見、普通の若い男女のグループが夕食を取っている光景ではあるのだが、テーブルの上が殺風景なのである。

オーブンで焼いた肉が、皿ごとそのまま置かれている。

肉にソースがかかっているとか、ポテトが添えてあるというのではなく、単なる肉だけを手にとって黙々と食べているのだ。

「むしゃむしゃ」という擬音が似合いそうで、子供の頃に見たアニメ「はじめ人間ギャートルズ」を思い出した。

 

「うちもギャートルズしてみますか?」

葵ちゃんから冷凍庫に鳥のモモ肉があると聞き、そのレポートを思いだしたのだ。

原始的な生活に興味があったわけではなく、焼くだけだったら簡単でいいなぁと料理の手間を省く口実である。

しかし、モモ肉は意外に小さく、オーブンで焼く程でもなかった。

 

「ほんでも、あぁいう原始人みたいな生活しとる人は、アメリカは結構、おるんやろ?」

僕がモモ肉にかかったサランラップを取る横で豆腐を切っていた葵ちゃんが原始的な生活の話について聞いてきた。

話を聞いているうちに、葵ちゃんが言っているのはアーミッシュだった。

 

アーミッシュは原始人的な生活とは違う。

厳格な規律を持った独特の生活スタイルを送るキリスト教徒の方々である。

近代的な生活に頼らないという規律があり、電気(風力発電などの蓄電地を使った電気はあるらしい)や通信機器、車などは使用しない。

見方を考えれば、環境に優しい集団で地球温暖化防止の参考になりそうな知恵を持っていそうにも思える。

 

「映画で知ったような気がするなぁ」

葵ちゃんはそう付け加えた。

きっとハリソンフォード主演の80年代の映画「目撃者」のことだろう。

葵ちゃんは、以前、岐阜の映画館の会員にまでなって映画を観に行っていた。

それはともかく、確かに僕も、その映画でアーミッシュの存在を初めて知った気がする。

 

「アーミッシュって何を食べてんのかなぁ」

僕はつぶやきながら、モモ肉をフライパンの上で焼き始めた。

「そのまま焼いただけでは美味しないて(美味しくないと思う)」

葵ちゃんは口を挟んできた。

 

ちなみに今、調べてみたら、アーミッシュのチキン料理は美味しいらしく、パイなども種類が多いのだそうだ。 

 

 

 

さて、僕が焼いていたチキンだが醤油とみりんを加えて焼いた。

結局のところ、単なる照り焼きである。

まぁ、原始的な生活が目的じゃないので、別にいいのだけれど。

 

 

 

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「焼きそばと痴呆症(セカイサンポ休憩中278)」

2010/02/03 13:20

 

葵ちゃんは夕食に帆立とキャベツの炒め物を作ろうとしていた。

「明日の夜は焼きそばでええよなぁ?

賞味期限が切れてまうで。

焼きそば用にキャベツ残しておくでな」

前日の夜、葵ちゃんはそう言っていたはずである。

翌日には既に忘れている。

 

そのくらいの物忘れは僕もする(40代にしては、かなりひどいのです)のだが、ただ、僕の場合、まだ今だったらキャベツを見たら、恐らく焼きそばを思いだすだろう。

葵ちゃんの物忘れの度合いに、僕はまだましだなぁと安心する。

70代の老人の物忘れと比べて安心する40代の方が問題ではあるけど。

 

「昨日、焼きそばにするって言っていませんでしたか?」

あえて丁寧語で、からかった。

焼きそばなので僕一人で焼酎のロックを飲みながら作ることにする。

 

最近こういった物忘れも、葵ちゃんの中でかなりの頻度でおきる。

英語で言うとfrequently、つまりoftenのしばしばより多い頻度でおきる。

ちょうど憶えたばかりの英単語だったのでどこかで使いたかったのである…と日本語のブログで使って満足している程度の英語力である。

 

こういった物忘れがひどくなってきている場合、どう対処した方がいいのだろう。

訂正しないで次の展開へ進ませてしまった方がいいのだろうか。

つまり今日の場合であれば、帆立とキャベツの炒め物を作らせて、「焼きそば」は次に思いだすまで放置しておく。

それとも相手の物忘れに気づいたら、その都度、訂正した方がいいのだろうか。

お医者さんに相談すれば明確な回答がいただけるのかもしれない。

 

今の段階では、そんなに神経質にならないで、そのままに次に進むも訂正するのもその場の雰囲気にまかせようと思っている。

現在、再発しているリウマチにしろ、今後、発生するかもしれない痴呆症にしろ、

「出てきたらどうするかなぁ…」

などと考え始めると、どんどん深みに入っていきそうである。

しかも、僕が旅または東京に行く可能性を考え始めると妄想は果てしない。

「どんなことでも永遠ってないでなぁ。

まぁ、その時、その時、判断して、その結果は運命として受け入れることにしよう」

そう葵ちゃんと言い合っていることは、これに関しても当てはまるような気がする。

 

 

キャベツと帆立、えびといかも入った少し豪華なシーフード焼きそばが出来上がった。

「これやったら、キャベツと帆立炒めと、えびといかの焼きそばでもよかったんやないんかね?」

葵ちゃんの言うこともごもっともである。

忘れたまま作らせていれば、焼きそばも思いだし、料理が二つになって、より豪華になっていたかもしれない。

 

「文句言うんやったら食べるな!」

考えとは裏腹に、そう言って、食卓に焼きそばを並べた。

 

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「髭と雑炊(セカイサンポ休憩中277)」

2010/02/02 13:22

 

雑炊に髭が1本、落ちた。

しばらく見入っていた。

 

 

もう一回、(髭の入った)ブログ用の写真を撮ろうかなぁ。

1ヶ月で髭もかなり伸びるもんなんだなぁ。

料理しながら、髭が入ることもあるよなぁ。

こういうとき料理人はどうするんだろう。

でも、料理人で髭伸ばしている人っていないのか?

どうでもいい考えが浮かんでは消えていく。

 

ラーメン屋で長い髪の毛が入っていて変えてもらおうとした時

「これは髪の毛じゃなくて、髭ですよ」

店主から当たり前のように言われ、カウンターの人達も当然という顔をしていたら、僕は、どんな反応をするだろう。

どうでもいい展開も浮かんでは消えていく。

 

丁稚奉公のように映画事務所に出入りしていた頃、口髭を生やしたディレクターに連れられてカラオケビデオの撮影旅行にアシスタントとしてついて行ったことがある。

夜、飲み屋で鍋のようなものをつついていた。

何を話していないか全く覚えていないが、ディレクターが興奮して話していた。

口髭に何かをつけながら。

それが雑炊だった。

ご飯粒とも卵の白身とも判断のつかない物体を見ながら、髭っていろいろな味が染み込んでいくのかなぁと思った。

その先輩には申し訳ないが髭=不潔に思えた瞬間だった。

どうでもいい思い出も浮かんでは消えていく。

 

「何、見とるんやね?」

あまりに、ぼーっと雑炊を見つめているので、葵ちゃんが声をかけてきた。

葵ちゃんは、筑前煮と煮豆の夕食だった。

僕だけ別メニューだったのである。

昨日の豚しゃぶで野菜が残ってしまったので、一人用の土鍋で野菜だけの鍋を日本酒のつまみにしたのだ。

そして、その後、ご飯と卵を落とし、少しだけオイスターソースをたらし、雑炊にした。

 

髭が雑炊の中に落ちた話をするとしかめっ面をした。

やはり、葵ちゃんにとっても料理に落ちた髭は汚いイメージがあるのだろう。

今年に入ってから髭を伸ばしている。

口髭は伸ばさないで顎髭だけ。

似合っているのか似合っていないのかわからない。

ただ、この1ヶ月の間に手持無沙汰の際、左手で髭を触っていることが癖になっていることはわかる。

顎を触った後、手先に残る髭の感触は、意外に心地いい。

 

「あんたの髭は、亀の子たわしの使い古したみたいやなぁ」

葵ちゃんの表現は言い得て妙だった。

確かに髪の毛のような同じ方向に惰性で向かっている生え方とは明らかに違う。

鏡で顎をじっと見ていて、荒れた大地に、それぞれが意志を持って生えてきた草のようだなぁと思ったこともある。

 

土鍋に落ちた髭をれんげですくって皿によけた。

固い髭が引き上げられたばかりの魚のように、びくついて動いているように見えた。

どうでもいい考えはまだまだ続きそうだ。

 

 

 

 

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「しゃぶしゃぶのカロリー(セカイサンポ休憩中276)」

2010/02/01 13:23

 

2010年の1月は、人生の中で餅を食べた最多月だったと思う。

こまめにジョギングしているからいいだろうと油断していたが、気付けば体重計の表示は1.5キロ増。

1.5リットルのペットボトルを持って自分の身体に付着していることを想像すると、ぞっとする。

やはり少し落そうと思う。

きっとジョギングの膝への負担もよくないだろう。

 

ふとジョギングで、ダイエットには、どのくらいの効果があるのか気になった。

つまりジョギングだけで1.5キロを落そうとするとどのくらい走ればいいのだろうかと。

あるホームページによれば、僕の体重で、だいたい150キロ走ってようやく落ちる重さらしい。

僕のジョギングの距離は1回約7キロなので約21日分の計算である。

再びぞっとする。

 

「あんだけ豚みたいに食べとれば太るわ。

だいたい、あんたは、カロリー取り過ぎなんやわ」

偉そうに葵ちゃんが言った。

 

ラテン語で「熱」の意味を表すカロリー。

僕には馴染みのあるカロリーという単位だが、学会などでは使われない単位らしい。

基本的に熱量はジュールを使用することになっており、国際単位系では、カロリーは併用単位にもなっていないと書かれている。

日本の経済産業省管轄の計量法でも、10年程前から栄養学や生物学に関する事項の計量以外でのカロリーの使用が禁止されている。

 

一応、栄養学の話ということで、このままカロリーで話を続けていく。

というより僕が、ここで栄養学や生物学以外でカロリー表示を使ってブログを書いたところで、計量法違反で捕まるという可能性も考えにくいけど。

 

 

さて、本日は豚しゃぶである。

昆布でだしを取り、そのだし汁の中で肉をくぐらせる。

しゃぶしゃぶ=カロリーが低めという頭があるので負い目もなく食べることができる。

 

「ほんなもん酒飲んどったら一緒やないんかね?」

葵ちゃんの言うことはもっともである。

だから、一応、酒の中でも、カロリーの低めなワインを飲んでいるではないか。

そんな反論も虚しく響く。

本来ならば飲まないで水かお茶で我慢した方がいいのだろう。

しかし、しゃぶしゃぶと白ワインの組み合わせは捨て難い。

 

「私は3枚で充分やで。

お姉ちゃんも3枚くらいしか食べへんで後はあんた食べやぁ」

葵ちゃんは野菜に手を伸ばした。

結局のところ、本日も満腹。

カロリー過多になっていることは間違いない。

 

しかも、今、書きながら、インターネットでしゃぶしゃぶのサイトを見ていたら、牛肉は湯をくぐらせたり、焼いたりすることで、脂が落ちてカロリーを抑えることができるが、豚肉は煮ても焼いてもカロリーが変わらないとのことである。

昨日のことを考えると…ぞっとします。

 

 

 

 

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「冷凍ウナギ(セカイサンポ休憩中275)」

2010/01/31 13:00

 

ウナギは初冬が美味しい。

夏の土用の丑に食べるイメージが強く、てっきり夏が旬なのだとばかり思っていた。

しかし、産卵の旅に出掛ける前の身体に栄養分を蓄えた状態が美味しいのだそうだ。

この食に関連したブログ(全く関係ないことも多いけど)を書く機会をいただかなければ、一生、知らないまま過ごしていただろう。

こうして食べ物の旬を、一つずつ知っていくということは、少しずつではあるが自然のサイクルの中に自分がいることを思い出させてくれる。

すぐに忘れてしまうのだけれど。

 

「これは忘れたらあかんのやない?」

冷凍庫の中のを見つけ、葵ちゃんに向かって言った。

今は「初冬」ではなく、「大寒」である。

 

12月初旬、東京に住む葵ちゃんの妹から、秋に柿を送ったお礼に鰻が送られてきた。

きっと鰻の旬を考えて送ってくださったのだろう。

これが送られてきた日は僕も覚えていたのだが、忘れてしまっていた。

 

「ほれみぃや。

あんたやって忘れとったんやないか!」

葵ちゃんは、鬼の首をとったように言い返してきた。

 

確かに僕も忘れていたが、言い訳がましく言わせていただくなら、だから僕は忘れないうちに、いただいた日に食べようと言ったのである。

新鮮だし。

「もったいないがね。

明日か明後日、食べよまい」

葵ちゃんはそう言って冷蔵庫の中に閉まったのである。

 

「ほんなこと言ったかね?

忘れてまったわ」

葵ちゃんは、しゃあしゃあと言った。

しかも冷蔵庫からいつのまにか冷凍庫に移し替えるなどとは、最初から長期保存しようとしていたという確信犯ではないか。

 

「ええがね。

今、食べられるんやで。

あんたも男のくせにごちゃごちゃうるさいなぁ」

葵ちゃんは開き直った。

ごちゃごちゃは言っていない。

言いたいことは一つだけである。

冷凍庫に入れておけば永久に保存できると思っている葵ちゃんの考えを訂正したいだけなのだ。

 

「はい。はい。

わかりましたよ」

僕の高校生の頃、口うるさかった葵ちゃんに対して、よく言っていた台詞を、今は葵ちゃんが使っている。

いつのまにか逆転している。

今なら高校生の僕の母親だった当時の葵ちゃんとなら、仲良く語り合えそうである。

 

 

「ほれみぃや、どうもあらへんやろ?」

僕が食べる様子を見ながら、葵ちゃんは、にやりと笑った。

確かに美味しかった。

関東風の調理で柔らかく上品な味わいである。

関西風の調理に慣れている葵ちゃんは、一度、蒸してから焼いた関東風は、少し物足りないようではある。

関西風の鰻は、そのまま素焼きにして、すぐにタレをつけて焼いてしまうので歯ごたえが違う。

僕はどちらも好きである。

「あんたみたいな雑食系は何でもええんやて」

可愛げのない葵ちゃんの憎まれ口は、「ごちそうさま」のゴングまで止まることはなかった。

 

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